特別講演会のお知らせ【2018.6.18 豊島 近 先生】(2018.06.14更新)
演題 | カルシウムポンプの構造生物学:膜の可視化から量子化学計算まで |
---|---|
演者 | 豊島 近 先生 |
所属 | 東京大学・定量生命科学研究所 教授 |
日時 | 2018年6月18日(月)17:00〜18:30 |
場所 | 旭川医科大学・実験実習機器センターI・カンファレンスルーム |
共催 | 日本生化学会北海道支部、日本生物物理学会北海道支部 |
概要 |
構造解析技術の進展によって、膜蛋白質の立体構造は数多く報告されるようになったが、脂質二重膜と膜蛋白質の相互作用に関する情報は、依然として著しく不足している。一方、演者は筋小胞体のCa2+ポンプであるCa2+-ATPase (SERCA1a)の反応中間体の結晶構造解析から、ポンプ機能の発現のためには、脂質二重膜は一見矛盾する性質を持つ必要があることを見出した。そこで、X線溶媒コントラスト変調法を開発し、SERCA1aの4つの中間体結晶中の脂質二重膜の解像を試みた。その結果、これまでの結晶解析では1, 2分子しか見えなかったCa2+ポンプを取り囲む燐脂質すべて(〜45分子) を解像でき、原子モデルの構築、構造の精密化にも成功した。4つの状態を比較することにより、膜蛋白質には燐脂質の「錨」として共に動くアミノ酸残基と膜に浮かぶための「浮き」となる残基が配置されており、両者の間に緊密な連携があること、脂質二重膜もポンプ機能を果たすためのメカニズムの一部として組み込まれていることが分かった [1]。
一方で、イオンポンプの機能発現のためにはプロトンが重要な役割を果たしていることが構造研究の結果理解されるようになってきたが、水素やプロトンは通常の分解能のX線結晶解析では見えない。例えば、SERCA1a の細胞質側Ca2+通路のゲートであるGlu309はCa2+結合に際しては、2番目のCa2+に配位し、2個のCa2+が結合したことを燐酸化サイトに伝える役割を持つ。一方、Ca2+に対し低親和性のE2状態ではプロトン化しており、それによって空のCa2+結合サイトを安定化していると考えられている。それが正しければ、Glu309をGlnに置換しても、E2状態の構造は変わらないと期待される。ところが、Glu309Gln変異体のE2条件の結晶構造を決定してみると、その構造変化は分子全体にわたる極めて大きいものであり、その理解のためには量子化学計算が必要であった。機能を構造から本当に理解しようとすると、量子化学計算は必須のものになるらしい。 [1] Norimatsu, Y., Hasegawa, K., Shimizu, N. & Toyoshima, C.
Protein-phospholipid interplay revealed with crystals of a calcium pump. Nature 545, 193-198 (2017)
受賞
2018年6月 日本学士院 恩賜賞・日本学士院賞 「原子構造に基づくイオンポンプ作動機構の解明」 2016年 武田科学振興財団 2016年度 武田医学賞 2016年 スウェーデン王立科学アカデミー Gregori Aminoff Prize 2016年 上原記念生命科学財団 平成27年度 上原賞 2015年 紫綬褒章 2009年 朝日賞 2005年 米国科学アカデミー会員 |
連絡先 | 旭川医科大学・医学部・生化学講座・機能分子科学分野 鈴木裕(TEL: 0166-68-2352) |
関連資料
講演ポスター【2018.6.18 豊島近先生】(321KB)