家族性アルツハイマー病(AD)の原因遺伝子であるPresenilin-1 (PSEN1)及び
Presenilin-2 (PSEN2)遺伝子がコードするプレセニリン(PS1及びPS2)は膜内ア
スパラギン酸プロテアーゼ複合体(γセクレターゼ)の触媒サブユニットとし
て、AD患者脳内にみられる老人斑の主成分βアミロイドペプチド(Aβ)産生に関
わっている。しかしγセクレターゼ及びその基質をコードする遺伝子のノックア
ウトは発生期に致死となる事が知られており、成体脳におけるそれらのin vivo
での機能はこれまで詳細に調べられていなかった。そこで我々はCre/loxP系を使
用して、成体神経細胞特異的Psen1/Psen2コンディショナルノックアウトマウス
(PS cDKOマウス)を作製し、γセクレターゼ活性が成体脳での神経細胞の生存維
持に必須であるという知見を示してきた。この事から家族性認知症患者で同定さ
れたPSEN遺伝子変異では、正常なγセクレターゼ機能が消失する事によって神経
変性が惹起されるのではないかと仮定した。この仮説を直接的に証明するため、
老人斑を伴わない前頭側頭型認知症(FTD)家系で同定されたPSEN1 c.548G>T変
異(p.183G>V)に着目し、その変異を組み入れたノックイン(KI)マウスを作製
した。このKIマウス脳では PS1の転写産物・タンパク質、及びγセクレターゼ酵
素活性の著しい低下がみられた。モリス水迷路試験を用いて空間記憶・学習能力
を測定したところ、KI/KIマウスでは、訓練後の記憶能力テストにおいて軽度の
記憶低下が認められた。これらの結果より、家族性FTDで同定されたPSEN1
c.548G>T変異は、γセクレターゼ活性の機能消失型変異であり、この変異そのも
のによって認知機能を低下させる事がin vivoで証明された。次にγセクレターゼ
活性がどの基質を介して神経細胞の生存を維持しているのか、Notch1及びNotch2
の成体神経細胞特異的コンディショナルノックアウトマウスを作製した。Notch1
及びNotch2 cKOマウスでは、PS cDKOマウスで認められた顕著な進行性神経変性
はみられなかった事から、成体脳での神経生存に必要なγセクレターゼ活性は少
なくともNotchを介していない事を明らかにした。現在、γセクレターゼ活性によ
る成熟神経細胞の生存維持の分子機序を検討中である。