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北海道支部について

特別講演会のお知らせ【2023年7月4日 高田慎治先生】(2023.06.28更新)

自然科学研究機構生命創成探究センターの高田慎治教授による講演会を企画しました。高田教授は、発がんや発生において重要なWntシグナル研究の第一人者で、その黎明期から現在に至るまで、おもに初期発生とタンパク質動態の観点から研究を続けてこられました。今回は、細胞間コミュニケーションに関した研究を中心にご講演いただきます。多数のご参加をお待ちしております。

演題

Wntリガンドを介した細胞相互のコミュニケーションは細胞間の格差を是正し、細胞社会を頑強にする

演者

高田 慎治 教授

所属

自然科学研究機構生命創成探究センター

日時

2023年7月4日(火)16:30〜17:30

場所

北海道大学・医学部北棟5階101号室   https://www.med.hokudai.ac.jp/general/floor/

(遺伝子病制御研究所が入っている建物 https://www.igm.hokudai.ac.jp/access.html )

 

共催

日本生化学会北海道支部

概要
 生物の組織や器官は多くの細胞から成り立つ秩序と機能を持った社会性のある集団です。このような多細胞集団が秩序を持って維持されていくためには、その構成因子である細胞は個々にバラバラに振る舞うのではなく、お互い同士が何らかのコミュニケーションを取り合っていることが大事だと考えられます。細胞相互のコミュニケーションには、個々の細胞が周囲に向けて放出する液性のシグナル分子が関わることが予想されてきましたが、細胞同士が互いにそのような液性のシグナル分子を出し合うことが多細胞集団の機能維持に本当に必要なのか、必要であるとすればどのような役割を果たすのかという点は未だにほとんど明らかになっていません。我々は、マウスの胚の発生をモデルにして、この問題に取り組みました。
 脊椎動物の胴体や尾は、頭側から尾の先端方向に向けて胚が徐々に伸長していくことによって作られていきます。その際、胴体や尾の様々な組織の細胞は胚の最も後端の尾芽に存在する前駆細胞から作られます。この前駆細胞の集団は、液性のシグナル分子の一つであるWnt3aを互いに放出し合っており、Wnt3aを欠落した胚では、胚の伸長過程の途中で前駆細胞が完全に枯渇し、前肢より後ろの体の組織が全くできません。そこで我々は、個々の細胞が作り出すWnt3aが、その細胞自身には作用するものの、周囲の細胞には作用しないようにしたマウス胚を人為的に作出し、細胞相互のWnt3aのやりとりが前駆細胞集団の機能や維持にどのように働いているのかを検討しました。この胚では、前駆細胞の数が減少するものの、一部の前駆細胞は維持され、その結果尻尾が細くなっていました。前駆細胞を詳細に調べたところ、正常な胚においても、分化した細胞を生み出す能力には、各々の前駆細胞ごとにある程度のバラツキがありましたが、本研究で作出した胚においては、その格差が拡大していました。またこの胚は、前駆細胞の維持を抑制する周囲からの刺激に対して、極めて脆弱であることもわかりました。これらの結果から、胚の後端の前駆細胞集団においては、Wnt3aによる細胞相互のコミュニケーションは、細胞間の格差の拡大を是正し、細胞社会をより頑強にするものと考えられます。(Hatakeyama et al., 2023, Nature Commun.)
連絡先

園下将大

北海道大学・遺伝子病制御研究所

 

山口良文

北海道大学・低温科学研究所  
e-mail; bunbun@lowtem.hokudai.ac.jp

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