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特別講演会のお知らせ【2025年6月26日 鈴木啓道先生】(2025.05.13更新)

2025年6月26日(木)12時より、国立がん研究センター研究所・脳腫瘍連携研究分野・分野長・鈴木啓道先生のセミナー「脳腫瘍の起源と腫瘍化機序の解明 」を開催いたします。
ご興味がある方に是非ご参加いただけますと幸いです。
多数の皆様のご参加をお待ち申し上げます。

演題

脳腫瘍の起源と腫瘍化機序の解明

演者

鈴木啓道先生

所属

国立がん研究センター研究所・脳腫瘍連携研究分野・分野長 

日時

2025年6月26日(木)12時より

場所

北大医学部 百年記念館 1階 大会議室、札幌市北区北15条西7丁目

共催

北海道癌談話会、日本生化学会北海道支部、日本病理学会北海道支部

概要

脳腫瘍は極めて多様性の高い疾患群であり、病理組織学的にも遺伝学的にも多くの疾患に分類される。近年、次世代シーケンサーの普及により、網羅的な遺伝子異常解析が可能となり、各脳腫瘍の分子病態に関する理解が大きく進展してきた。その結果、脳腫瘍を特徴づける主要なゲノム異常が同定され、疾患分類や診療にも活用されている。さらに小児脳腫瘍においては、正常な神経発生過程の逸脱が腫瘍化の根幹にあることが明らかになりつつある。すなわち、特定の発生段階にある起源細胞に特異的な遺伝子異常が生じることで、分化が阻害され、腫瘍が形成されることが明らかになってきた。
  我々はこれまでに様々な脳腫瘍に対してゲノム解析を行い、新規のドライバー遺伝子を同定してきた。中でも髄芽腫は、小児において最も頻度が高く悪性度も高い脳腫瘍であり、WNT、SHH、Group 3、Group 4の4つのサブグループに分類される。そのうちGroup 3およびGroup 4に関しては、これまで発生機序や病因となる分子経路が不明であり、名称にもそれが反映されていた。
  本研究では、髄芽腫の大規模ゲノム解析を通じて、Core Binding Factor alpha(CBFA)複合体構成因子であるCBFA2T2およびCBFA2T3遺伝子に有意な異常が集積していることを発見した。CBFA複合体は、これまでに報告されていたGroup 3およびGroup 4での有意変異遺伝子も含む重要な転写制御複合体であり、両グループの髄芽腫において共通して高頻度に異常が生じていることが示された。
  さらに、Single-cell RNA解析と正常発達脳のデータとの比較解析により、Group 3およびGroup 4の髄芽腫は、小脳における菱脳唇由来の神経前駆細胞を起源とする可能性が示された。これらの細胞においてCBFA複合体は正常な神経分化を誘導する役割を担っており、その機能破綻により分化が阻害され、本来は消失すべき細胞が遺残することで腫瘍化に至ることが明らかとなった。これにより、これまで不明とされてきたGroup 3およびGroup 4髄芽腫の発生機序に新たな知見を提供することができた。
  このように、脳腫瘍の形成には単なるゲノム異常の同定にとどまらず、腫瘍の起源細胞や発生文脈を含めた包括的理解が不可欠である。発達過程における分化の破綻という視点は、ゲノム異常に依存しない新たな治療標的の発見にもつながる可能性があり、今後の診断・治療法開発に向けて重要な手がかりとなると考えられる。

連絡先

谷口 浩二
北海道大学大学院医学研究院 統合病理学教室 
〒060-8638 北海道札幌市北区北15条西7丁目
TEL: 011-706-5050 FAX: 011-706-7825
E-Mail: path1@med.hokudai.ac.jp

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